Like The Floating Moon pt.2

音楽レビュー、読んだ本、ひとりごと。記事を書く時の「冗長さ」と書かない時の「やる気の無さ」の落差が非常に激しいブログです。

OGRE YOU ASSHOLE - ペーパークラフト

しばらくあっちの方のレビューブログ(Like The Floating Moon)は更新を止めてました。ちょっとレビューの方法などに思うところがあったので…
ということで、心機一転、はてなの方にブログを移動しました。
こっちでは音楽レビューだけではなく読んだ本やマンガの感想、日記とかもぼちぼち載せていこうかと思います。

 

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このブログでのレビュー一発目は日本のインディーロックバンド、OGRE YOU ASSHOLEの7thアルバムの「ペーパークラフト」(2014年)です。
普段僕はこういうインディーロック系はあまり聴かないんですが(メタルとかプログレ好きマンだからか、どうもああいう乾いた感じとかガレージ感とかスノッブな感じ(偏見含む)がニガテなんです)、去年何気なくレンタルでジャケ借りした5thアルバム「homely」があまりにも僕好みのサイケでプログレな作風で驚きました。
クラウトロックアンビエントに近いミニマムな酩酊感、時折入るホーンセクションやメロウな歌メロから感じるAOR的な質感、コンセプト的なものを感じる抽象的世界観。
エレピやメロトロンやオルガンなどのヴィンテージ的な機材を効果的に使いながらも、決して懐古趣味に陥らない乾いた現代性もあります。
聞けばその「homely」から音楽性が見事に「化けた」バンドらしく、まだそれ以前のアルバムは聴けてないもののそれ以降注目してきました。

今作は「homely」「100年後」に続くオウガ流サイケロック路線の第3作目。
本作のキモは、やはり無機的な「陶酔感」と有機的な「メロウさ」の対比でしょう。
今作のコンセプトも関係してか、これまで以上に音数少なくミニマムな曲や演奏で、「homely」以降のアルバムでは一番「無機質性」「虚しさ」が際立ってる印象です。
しかし、やはりメロウな歌メロや生楽器のアンサンブルが全体を支えています。無機質なリフレインの合間に切ない歌やサックスやメロトロンの旋律が現れるのがいい対比になってて、それが凄く印象に残りますね。

初っ端の「他人の夢」の転調する部分の歌メロからしてもうカタルシス全開で泣けます。歌われている歌詞は、他人の欲望の中で生きることしかできない人間の残酷な運命についてでしょうか。ジャック・ラカンの「人間の欲望は他者の欲望である」のテーゼを彷彿とさせます。
「見えないルール」では一変して冷めたファンク感が支配しますが、終盤にポストパンク的に暴れまわるギターが登場します。見えないルールに例えられた「空気」などの閉塞感をぶち壊すことを暗喩してるんでしょうか?
「いつかの旅行」は初期のCanを彷彿とさせる淡々としたリズムマシンの演奏に、ボサノヴァ風のアコギが乗ってます。ボーカルも遠くから聞こえてくる感じのエフェクトがかけられていて、一聴するとかなりスカスカの音なんですが、それがまたこの歌詞の示す曖昧な世界を引き立たせててますね。
そして個人的に本作のキラーチューン、「ムダがないって素晴らしい」。曲名通りムダのないミニマムな印象を受ける曲ですが、バックに鳴っているパーカッションの音は非常に豊かでトライバルな感じがします。このパーカッションの音はなかなかクセになりますね。無機質なパーカッションの波の中でAORみたいなスムーズな質感の歌メロが乗ります。
淡々とした「ちょっとの後悔」でも最後には泣きのメロトロンが出てきます。やはりこういったコントラストの聞かせ方が凄く上手く印象的。
エコーするギターをバックに無機質な調子でのポエトリーリーディングが流れる「ペーパークラフト」。このアルバムのコンセプトを如実に表しています。
「話しかけても、横に回ればただの線」。普段我々が「在る」と思っているすべての物や人は結局ハリボテのように中身のない「紙の街」、「紙の家」、「紙の人」に過ぎないんでしょうか?
最後の「誰もいない」はイントロから寄り添うサックスが印象的で、本当に切なくムーディーなメロディーの曲です。
最後は「homely」の冒頭のトラックの「ロープ」のSEが流れて終了。3作合わせてのコンセプト作ってことですね。

いやー、音楽的にも凄く自分好みなんですが、普段歌詞を聴かない僕もこのアルバムの歌詞は凄く印象に残りました。オウガを聴き始めた時はあまり好きではなかった甘い感じのボーカルも、この作品の諦観のような世界に上手くマッチしててちょっと印象も変わった感じです。
クラウトロックプログレを彷彿とさせる温かな質感もいい。自分の中では年間ベスト入りがもう決定してます。

 


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